薬の処方、精神科に入院…介護施設の現実は。
【隔週木曜日更新】連載「母への詫び状」第二十二回
■暴力沙汰を起こして精神科の病院に入院
一般的な認知症の薬は、脳の働きを活性化させる薬ですから、ほどよく元気が出るとちょうどいいんですが、元気が出すぎると怒りっぽさや暴力につながる。集団生活の中で優先されるのは、元気が出すぎないこと、おとなしく過ごすことだから、そっち方面へ調節されてしまうのは仕方のないことかも知れません。
「おとなしいけど、失禁してしまう人」と「トイレは自分でできるけど、たまに乱暴になる人」では、どちらが施設にとって迷惑かという話です。
この例えは、私の父のことなんです。
父は認知症でしたが、足腰は元気で、トイレも自分ひとりでできました。ところが特養に入って1年後くらいに、ちょっとした騒ぎを起こしてと言いますか、介護士さんの手を振り払ったら父の手が相手の顔に当たってしまい、殴ったような形になったらしくて……。
私は現場を見ていないので、それが暴力だったのか、たまたま手が当たっただけなのかはわかりません。
そしたら、施設の人に「うちの系列の精神科の病院があるので、一度そちらに入院していただき、落ち着いたら戻ってくるような形にしたい」と言われてしまった。
暴力沙汰を起こして精神科の病院に入院……って、いったい何が待っているのか、あえて考えないようにしました。
お父さん、あんたが悪いんだ、せっかく特養に入れてもらったのにバカなことをして、自業自得だよ。そう言い聞かせるしかなかった。
精神科の病院に入院するのは、手続きが大変なんです。たくさんの書類に1枚1枚サインさせられて、もし何かあったら手足を拘束する場合もあるとか、そういう覚え書きに家族として同意しないといけない。
それで2週間くらい入院して、父は特養に戻ってきたんですが、その姿はまるっきり別人でした。目から生気が抜けて、焦点が定まっていない。トイレは自分できる元気な人だったのに、失禁してしまうおとなしい人に変わっていた。
父の脳に何があったのか。今、思い出しても、申し訳なくていたたまれない。しかし、これが介護をプロに任せるということであり、集団生活を送るために必要なことなのだろうと、心を押し殺して従いました。
父はそれから半年後くらいに脳出血を発症して、口もきけない状態となり、数ヶ月後に旅立ちました。
「施設に入れるとね、命を縮めることになるんだよ」
おばさんの言葉が、胸に突き刺さりました。